
外国人による対日投資に対する規制 事前届出制度
Yoshio YamaguchiShare
外為法に基づく対内直接投資規制とは
外為法(外国為替及び外国貿易法)では、外国投資家が、指定業種を営む日本企業に対して、直接投資等一定の行為を行う場合、外国投資家に対して事前届出を義務づけています(外為法第27条)。
審査の結果、国の安全を損なう等のおそれがある場合、関係大臣は投資の変更・中止の勧告・命令を行うことが可能です。<事前届出>
他方で、一定の基準遵守を前提に、事前届出が免除される制度があります(外為法第27条の2)。<事前届出免除>
外国投資家とは(外為法26条1項)
外国投資家とは主に下記の者をいいます。日本子会社であっても「外国投資家」に含まれる場合があります。
・非居住者である個人(非居住者)
・外国法令に基づいて設立された法人(外国法人)
・非居住者である個人又は外国法人等により直接又は間接に保有される議決権が50%以上の日本企業(外資系企業)
・一定の外国投資家が業務執行組合員の過半数を占める組合(外資系ファンド)
・非居住者がその役員又は代表役員の過半数を占めるもの(役員・代表役員の過半数が非居住者)
対内直接投資とは(外為法26条2項)
事前届出が必要となる対内直接投資とは、主に次の場合をいいます。
類型 |
内容 |
閾値 |
1号対内直投 |
非上場会社の株式又は持分の取得 |
なし |
2号対内直投 |
非居住者となる以前から所有する非上場企業の株式又は持分の他の外国投資家に対する譲渡 |
なし |
3号対内直投 |
上場企業等の株式の取得 |
密接関連者と合わせて株式保有比率1%以上。1%未満なら手続き不要 |
4号対内直投 |
上場企業等の議決権の取得 |
密接関連者と合わせて議決権保有比率1%以上。1%未満なら手続き不要 |
5号対内直投 |
日本企業の事業目的の実質的な変更に関し行う同意 |
<上場企業等の場合> 密接関連者と合わせて1/3以上。1/3未満なら手続き不要 <非上場企業の場合> なし |
取締役若しくは監査役の選任に係る議案に関し行う同意 |
<上場企業等の場合> 密接関連者と合わせて議決権保有比率1%以上。1%未満なら手続き不要 <非上場企業の場合> なし |
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事業譲渡等に係る議案に関し行う同意 |
<上場企業等の場合> 密接関連者と合わせて議決権保有比率1%以上。1%未満なら手続き不要 <非上場企業の場合> なし |
|
6号対内直投 |
日本における支店の設置 |
なし |
7号対内直投 |
日本企業に対する期間1年超の貸付 |
なし |
特定取得 |
外国人投資家からの非上場企業の株式又は持分の取得 |
なし |
(NIBEN Frontier 2024年1・2月合併号 インバウンド実務入門外為法に基づく外資規制の実務 大川信太郎 図5を簡略化したもの )
指定業種、コア業種とは
指定業種
事前届出の必要な業種のうち一つでも営んでいる場合には事前届け出の対象となります。投資先の子会社が指定業種を営んでいる場合も事前届け出の対象となります。
指定業種とは、国の安全や公の秩序に関係するものとして告示において指定されている業種をいいます。必ずしも軍事転用可能な技術を有する事業だけではなく、医療、電力、通信、ソフトウェア製造、情報処理サービス、インターネット利用サポート等の幅広い業種が含まれています。
指定業種は非常に多いですが、対内直接投資指定業種告示には別表が3つあり、別表第1と別表第2に該当するものが指定業種であり、別表第3に該当するものは指定業種ではない業種です。
別表第一(PDF:113KB) 別表第二(PDF:167KB)
別表第三(PDF:323KB)
特にIT関連企業の場合にはその範囲が明確ではありません。例えば、ITソフトウェアの会社で他社にアプリケーションを販売している場合にはソフトウェア製造に該当する可能性があります。IT系企業で第三者の情報を扱っている企業やインターネットに関して何かサポートする業務を行う場合には、情報処理サービス業・インターネット利用サポート業に該当する可能性があるようです(前出 NIBEN Frontier大川)。
事前届出の必要な業種
・武器・航空機(無人航空機を含む)宇宙開発・原子力関連の製造業、及び、これらの業種に係る修理業、ソフトウェア業(全てコア業種)
・軍事転用可能な汎用品の製造業(全てコア業種)
・一感染症に対する医薬品に係る製造業、高度管理医療機器に係る製造業(全てコア業種)
・重要鉱物資源に係る金属鉱業・製錬業等、特定離島港湾施設等の整備を行う建設業(全てコア業種)
・肥料(塩化カリウム等)輸入業(全てコア業種)
・永久磁石製造業・素材製造業工作機械・産業用ロボット製造業等(全てコア業種)
・半導体製造装置等の製造業(全てコア業種)
・蓄電池製造業・素材製造業(全てコア業種)
・船舶の部品(エンジン等)製造業(全てコア業種)
・金属3Dプリンター製造業・金属粉末の製造業(全てコア業種)
・サイバーセキュリティ関連業種(情報処理関連の機器・部品・ソフトウェア製造業種、情報サービス関連業種)(一部コア業種)
・インフラ関連業種(電力業、ガス業、通信業、上水道、鉄道業、石油業、熱供給業、放送業、旅客運送)(一部コア業種)
・警備業、農林水産業、皮革製品製造業、航空運輸業、海運業(一部コア業種)
出典:2023年5月財務省国際局 外国投資家による投資について
コア業種
さらに指定業種のうち一部は安全保障上特に重要な業種として、告示においてコア業種に指定されています。
上場会社については、指定業種及びコア業種に該当する個別銘柄のリストが財務省ウェブサイトに掲載されており、2023年5月19日改訂版によると、上場企業3,979社のうち指定業種を営む上場会社は1,975社(50%)で、そのうちコア業種を営む上場会社は891社(22.4%)です。
本邦上場会社の外為法における対内直接投資等事前届出該当性リスト
前出 NIBEN Frontier大川によると、財務省の上場会社リストはあくまで参考資料であって、これに依拠することはリスクが高いとのことです。なぜかというと、リスト規制該当性などの情報は外部からは判断のしようがなく、外部から完璧なリストを作るのは不可能だからです。
上記「事前届出の必要な業種」に記載しているリストのうち、(全てコア業種)とある業種は、その業種に該当すれば同時にコア業種に該当します。(一部コア業種)とある業種は、その業種のうちさらに特定の条件に当てはまる場合にはコア業種に該当します。
事前届出の流れ
・事前届出書類の作成
・提出
・審査
・投資等の実行
・実行報告書の提出
事前届出に該当する業種に対して投資する際には、当該取引を行う前6カ月以内に、日本銀行を通じて、財務大臣及び事業所管大臣に対し、事前届出書を提出します。
届出受理日から原則30日間は、外国人投資家は当該取引を行うことが禁止されますが、機微性の低い案件では禁止期間は2週間に短縮されるようです。禁止期間を経て当該取引を行うことが許可されると、実際に株式の取得などをすることができるようになります。
事前届出又は事後報告を行うのは外国投資家ですが、外国投資家が非居住者の場合は、居住者である代理人が行います。
事前届出を行った外国投資家が株式の取得、処分等の行為をおこなったときは、45日以内に日本銀行を経由して財務大臣等に報告する必要があります。
事前届出免除制度
外国投資家、対内直接投資、指定業種の3つを検討した結果、事前届出が必要な場合に該当する場合であっても、下記の要件に該当する場合、事前届出が免除され事後報告を行うことになります。
投資先が上場会社の場合
コア業種以外
外国投資家(外国金融機関を除く)は、指定業種のうち、コア業種以外を営む上場会社の株式を1%以上取得する場合には、後述する免除基準を満たせば事前届出は原則として免除されます。
コア業種
コア業種を営む上場会社の株式を1%以上10%まで取得する場合には、免除基準に加えて上乗せ基準を満たす場合には、事前届出は原則として免除されます。
投資先が非上場株式の場合
コア業種以外
非上場会社への対内直接投資については、コア業種以外の指定業種については、出資比率に関係なく、免除基準の遵守をすることにより事前届出免除制度が利用可能です。
コア業種
コア業種の場合には、事前届け出免除の利用は不可です。
免除基準と上乗せ基準
事前届出を免除されるためには、下記の基準を遵守する必要があります。
免除基準
・外国投資家自ら又はその関係者が発行会社等の取締役等に就任しないこと
・指定業種に属する事業の譲渡・廃止の議案を株主総会に提案しないこと
・指定業種に属する事業に係る非公開の技術情報にアクセスしないこと
さらにコア業種に対する投資を行う場合には、次の上乗せ基準も追加されます(上場株式への投資の場合に限る)
上乗せ基準
・コア業種に属する事業に関し、重要な意思決定権限を有する委員会に自ら参加しない
・コア業種に属する事業に関し、取締役会等に期限を付して回答・行動を求めて書面で提案を行わない。
事前届出が必要な場合の例
外国法人がクローズドチャット機能を有するアプリの運営会社(非上場)を日本に設立する場合。クローズドチャット機能を有する場合には電気通信事業法の届出が必要であり、通信業は指定業種に該当し、さらに複数の市区町村にまたがる電気通信サービス等を提供する場合はコア業種に該当します。非上場企業のコア業種への投資については事前届出免除制度は利用できません。
学習塾を運営するA社(非上場)は子会社にソフトウェアを開発する日本a社を有する。A社株主である外国法人B社は、経営関与強化を目的にB社役員をA社の役員として就任させることについて株主総会において同意する場合。A社の子会社a社のソフトウェア開発事業が指定業種に該当します。経営関与強化が目的であり免除基準を遵守しないため事前届け出免除制度の利用はできません。
外国に在住する個人投資家が、輸出規制の対象となる先端材料を製造する日本の非上場企業に対して、1株(端株も含む)以上の株式取得を行う場合。外国に居住する個人による非上場会社のコア業種への投資なので、出資比率にかかわらず事前届出免除制度は利用できません。
事後報告
事前届出を行った外国投資家が株式の取得、処分等の行為をおこなったときは、45日以内に財務大臣等に報告する必要があります(実行報告)。
事前届出を必要としない場合には、事後報告書の提出が義務付けられることになります。事前届出を必要としない場合とは、投資先が営む事業に指定業種に属する事業が含まれていない場合、事前届け出免除制度を利用している場合です。
まとめ
ポイントは3点であり、外国投資家に該当するか、国内直接投資に該当するか、投資先の事業は指定事業・コア事業に該当するか、を検討していくことになります。
指定業種・コア業種についてはその範囲が広く、内容も明確ではないため注意が必要です。