
外国人が受ける現物給与
Yoshio YamaguchiShare
海外の会社に勤務する外国人の方が日本子会社に派遣されて日本にて勤務をしている場合、この外国人の方をエキスパッツと呼ぶことがあります。エキスパッツの方の給与体系は日本人従業員の給与体系とは異なることがありますが、その代表的なものが「経済的利益」、つまり金銭以外の利益による給与の存在です。
原則として経済的利益も給与なので所得税の課税対象になります。しかし、経済的利益によっては給与として課税されるのかどうかがわかりにくいものが多々あるので、確認してみたいと思います。
通勤費(定期代やガソリン代)
通勤に係る運賃、時間、距離等の諸事情に照らして最も経済的かつ合理的と認められる通常の通勤経路及び方法による運賃の額には、所得税は課されません(非課税になります)(所得税法9条1項5号、所得税法施行令20条の2)。ただ、新幹線通勤はどうなのか、特急列車を利用したらどうなのか、自家用車利用は?というようにいろいろと問題となる場面は出てきます。詳しくは国税庁の「No.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」の記事をご覧ください。
旅費
転勤のために要した旅費について、通常必要であると認められるものは非課税になります(所得税法9条1項4号)。エキスパッツの方が日本に着任したときの移動費用も、通常必要な範囲であれば非課税になります。
しかし、名目が旅費であっても、旅行の実態と関係なく年額又は月額で一律に支給される旅費等(個々の旅行との結びつきが明らかでないもの、いわゆる渡切旅費)や通常必要と認められる金額を超える部分の金額は、所得税は非課税とはなりません。
所得税や住民税の会社負担分
所得税及び住民税は、本来個人が負担すべきものですが、海外親会社等から出向で日本に来ている外国人については、所得税や住民税を会社が負担するケースもあるようです。会社が負担した金額は当該外国人の給与所得としてさらに課税対象になります。給与所得が増加することで所得税等が増加し、この増加分をまた会社が負担をし、さらに税金が発生して、、、となると結局いくらを従業員に支給をすればよいのかがわかりにくくなります。ここでいわゆるグロスアップ計算が必要となります。
ホームリーブ(帰郷旅費)所得税個別通達(昭50直法6-1)
就業規則等により、おおむね1年以上の期間を経過するごとに外国人従業員に対して休暇のための帰国を認め、帰国に必要な旅費を会社が支給する場合、経済的合理的と認められる部分に限り所得税は非課税となります。法人税法上は旅費交通費として損金計上します。
詳細は「国内において勤務する外国人に対し休暇帰国のため旅費として支給する金品に対する所得税の取扱いについて」をご覧ください。
通常、長距離の場合はビジネスクラスまでは認められていますがファーストクラスは認められていないようです。明文の根拠はありませんが、実務慣行的な取扱いとなっているようです。
生計を同じくする配偶者、親族のホームリーブ費用の支給も非課税になります。
ホームリーブ費用に代えて、本国から配偶者及び扶養親族を呼び寄せるための旅費も非課税になるようです。(*3)
このホームリーブ通達は外国法人の親会社等から日本子会社等に派遣されたものを対象としていることから、自己の都合で来日をして日本において直接雇用された外国人に対しては適用外となるようです(*1)。
役員が年に数回帰国した場合の費用については、このうち1回は非課税となり残りは課税対象になるようです。(*2)
エキスパットとその帯同家族が異なるタイミングでホームリーブを行う場合、過去の税務調査においてホームリーブの非課税要件には当てはまらないと否認された例があるようです。
(*1)非居住者税制と源泉徴収質疑応答集 吉川保弘p332
(*3)上記吉川p333
借上げ社宅、家賃
社宅や寮を従業員に住居として使用させている場合、従業員から徴収している賃貸料の額が賃貸料相当額の50%相当額以上である場合には、使用人が受ける経済的利益はないものとされます(所得税法基本通達36-47)。賃料相当額の計算方法は、所得税法36-41にて具体的に規定されています。
なお、現金で支給される住宅手当や、入居者が直接契約している場合の家賃負担は社宅の貸与とは認められないため、全額が給与として課税される点に注意しましょう。
社有車の貸与、リース車(法人契約)の貸与
会社が借り受けた車両が業務遂行上必要であり、もっぱら業務目的で使用されている場合には、車両リース費用及びその駐車場代には課税しなくてもいいですが、私的使用目的の部分については課税対象になります。
外国人本国での家具保管料
外国法人が日本の子会社に勤務させるために、米国人従業員を日本に派遣し、米国法人が当該米国人従業員(非永住者)の家具の保管料を負担した場合には、国外で支払われた日本の国内源泉所得として日本に課税の対象となります(仲谷栄一郎共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局697頁)
子女教育費
原則は、経済的利益として給与課税されます。しかし、会社がインターナショナルスクールに対する寄付を行っている場合、その子供の学費が免除される仕組みになっている場合、学費免除による従業員の経済的利益については強いて課税しないものとして取り扱われているようです。
(*)非居住者税制と源泉徴収質疑応答集 吉川
なお、会社の法人税法上の取扱いは、寄附金に該当するので損金算入限度額を超える部分は損金不算入となります。
最後に
給与以外にも会社から何かしらの経済的な利益を受けた場合には、原則として給与所得に該当し、所得税の対象になります。住居の場合には、社宅であれば課税されないが、現金補助だと課税されるというような違いがあるため、早め早めに税務上の取扱いを確認しておく必要があると思われます。