
海外へ出向する年度の年末調整及び確定申告、出向後の給与及び賞与、住民税
Yoshio YamaguchiShare
従業員が1年以上の予定で海外へ出向することになった場合、出国前と出向後、日本で支給される給与・賞与の取扱いはどうなるでしょうか。
1年以上の予定で海外に出向する場合には、出向した日の翌日から日本の税務上は非居住者になります。
ポイントは、1つの年度の中で居住者の期間と非居住者の期間の2つのステイタスが存在することです。
なお、説明の便宜上、当該従業員には給与所得のみがあり、不動産所得や株式の譲渡所得などはないものと仮定します。
出国する年度の年末調整について
年度の途中で海外に出国をしたことにより居住者から非居住者となる場合には、出国をする日までに会社は年末調整を行うことになります(所得税法190条、所得税法基本通達190-1)。
その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2千万円超の場合には年末調整の対象にはなりません。
社会保険料控除、生命保険料控除は、居住者であった期間(出国する日まで)に支払ったものが控除の対象となります(所得税法76条第1項)。
出国する年度の確定申告について
給与所得しかない居住者の場合、原則として、会社によって年末調整及び源泉徴収がされているので確定申告の必要はありません。
しかし、給与の金額が2千万円を超える人の場合には確定申告が必要です。その提出期限は納税管理人を定めているかどうかによって違ってきます。納税管理人を定めた場合には、出国した年の翌年の2月16日から3月15日までの期間に納税管理人を通じて確定申告書を提出することになります(所得税法120条1項)。納税管理人を定めないで出国する場合には、その出国の時までに確定申告書を提出しなくてはなりません(所得税法127条1項)。
出国する年度の住民税について
住民税は前年の1年間(1月1日から12月31日)の所得に基づいて税額が計算され、6月から翌年の5月まで分割して給与から源泉徴収される方法で都道府県及び市町村へ支払う仕組みです(特別徴収制度)。例えば令和6年度(1月から12月まで)に支給を受けた給与に対する住民税は、令和7年6月から令和8年5月までの給与から毎月支払いがなされます。
出国した令和6年度においては、基本的には、出国した月から令和8年5月までの住民税の全額を源泉徴収し、一括して都道府県及び市町村へ支払いをすることになります。
出国後に支払う賞与の取扱い
続いて出国後に非居住者となってからの給与及び賞与の取扱いについてです。
まずは賞与について。
例えば、賞与の計算期間が10月1日から3月31日であり、その間の1月20日に出国しましたが、賞与の支払いは6月15日であったとします。
賞与の支払いがあった時点(6月15日)では、従業員はすでに非居住者です。非居住者が所得税を課される範囲は国内源泉所得に限定されます(所得税法7条1項3号)。
賞与のうち、国内勤務期間に対応する部分(10月1日から1月20日)は国内源泉所得であるため(所得税法161条1項12号イ)日本で課税されることになります。
従って、非居住者に対し国内において国内源泉所得の給与を支払うときに、会社には源泉徴収義務があります(212条1項)。
賞与のうち、国外勤務期間に対応する部分(1月21日から3月31日)は国外源泉所得です。非居住者が得た国外源泉所得に対しては、日本の所得税は課税されません。よって会社には源泉徴収義務はありません。通常は勤務地となった海外の国によって所得税が課税されることになります。
出国後に支払う給与の取扱い
以上は賞与についてですが、給与の場合には取扱いが違ってきます。
給与の計算期間の途中で非居住者となった場合で次の条件を全て満たす場合には、その給与の総額を国内源泉所得に該当しないものとすることができます。
・給与の計算期間が1か月以下である。
・その給与の全額がその者の国内において行った勤務に対応するものではない。
・日本法人の役員が役員として国外で行う勤務については適用しません。
本来であれば、給与金額を日数によって国内勤務期間に対応する部分と国外勤務期間に対応する部分に分割し、国内勤務期間に対応する部分は国内源泉所得であり、この部分については会社には源泉徴収義務があります。しかし、この通達によって、給与は全額が国外源泉所得として扱うことができます(所得税基本通達212-5)。つまり、按分計算をすることなく、全額を日本の所得税の対象外として取り扱うことになります。
出国後の住民税について
住民税は、その年の1月1日現在において市町村内に住所を有する個人に対して課税されるのが原則です(地方税法24条1項、39条)。この場合の住所とは、原則として、その者の住民基本台帳に記録されている市町村にあるとされています(地方税法24条2項)。
例えば令和6年12月期の所得に係る住民税は、令和7年6月1日から令和8年5月において源泉徴収の方法で支払われることになります。しかし、出向者は令和7月1月1日には日本に住所を有していないことから、令和6年12月期の所得に係る住民税は、納税する義務がありません。